日本語はどんな語順で話す?
「日本語の語順って難しい!」「アニメやドラマで聞いた日本語、なんだか語順が変だった気がする…」そんな風に感じたことはありませんか。この記事では、日本語でのコミュニケーションに欠かせない「日本語の語順」について、詳しく見ていきます。これまで不思議に感じていた日本人のコミュニケーションスタイルの謎もとけますよ!それでは早速、見ていきましょう。
日本語の語順の特徴(SOV型)
みなさんの母語に語順のルールがあるように、日本語にも語順のルールがあります。日本語の語順の基本は「主語(S)→目的語(O)→動詞(V)」です。この語順のグループを「SOV型」と言います。では英語と比較しながら、具体的に見てみましょう。
[日本語]田中さんは ラーメンを 食べます。
(S) (O) (V)
[英語] Mr.Tanaka eats ramen.
(S) (V) (O)
ここで一番大切なのは、日本語では、動詞を一番最後に置く、ということです。
同じ語順の言語はある?
ところで「日本語は世界の言語の中でも難しい言語だ!」なんてことを、ときどき耳にします。確かに、文字は「ひらがな」「カタカナ」「漢字」、最近では「アルファベット」まで使いますし、単語と単語の間にスペースもなく、ずらっと文字が並ぶ文章に、圧倒されることもあるかもしれません。
ですが、語学習得の難易度は「日本語だから難しい」「◯◯語だから簡単」といった単純なものではなく、母語と学習言語がどれぐらい違っているかによって決まるそうです。それでは、日本語と似た言語はあるのでしょうか。今回は「語順」の観点から見てみましょう。
日本語と同じ「SOV型」の言語…約41%
韓国語、トルコ語、モンゴル語、ヒンディー語 など
英語と同じ「SVO型」の言語…約35%
フランス語、スペイン語、中国語、タイ語、ベトナム語 など
VSO型の言語…約7%
アラビア語、ヘブライ語、アイルランド語 など
VOS型の言語…約2%
タガログ語 など
なんとびっくり!日本語と同じ「SOV型」は全体の約41%を占め、世界には564言語もSOV型の言語があるそうです。日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字など、「様々な文字を使う」という意味では少し特殊かもしれませんが、語順という意味では、決して特殊な言語ではありません。
日本語は最後まで聞かないと内容が分からない?
日本人なら子どもの頃に、必ず一度は親に言われるのが「他の人の話は、最後まできちんと聞きなさい!」という言葉。そうなんです。SOV型の日本語は、最後に動詞や否定表現など、文の意味を決定づける重要な要素が来るため、文の最後まで聞かないと、相手が伝えたいことがわからないんです。
では、具体的に見てみましょう。
(例)昨日、夫が駅前のデパートで買った若い人に大人気のチーズケーキを私は食べませんでした。
長い文ですね…。それに「夫がデパートで買った」やら「若い人に大人気」やら、いろいろな話が出てきて、パッと聞いただけでは、何を言いたいのかよくわかりません。でも、この文で一番言いたいことは、文の最後にある「私は、チーズケーキを食べませんでした!」ということなんです。
SVO型の英語と比較すると一目瞭然!最初に結論が来る英語とは、日本語は真逆の構造ですね。
I didn’t eat the cheesecake, which is very popular among young people and was bought by my husband at the department store in front of the station yesterday.
しかも、お気付きの通り、日本語は名詞を修飾する場合も、修飾要素を前に、一番重要な名詞を最後に置きます。例の場合、「夫が駅前のデパートで買った若い人に大人気の」は、「チーズケーキ」を修飾する部分です。
「どこからどこまでが、修飾部分かわかりにくい!」そんな声が聞こえてきそうですが、これが日本語の語順の特徴。やっぱり日本語は最後まで聞かないと、相手が言いたいことがわからない言語なんです。
私はスペインで日本語教師をしていますが、よく現地の人に「スペイン人は人の話に途中で割って入るけれど、日本人は最後の最後まで、話をよく聞きますね。」と感心されます。
これは、国民性の違いもあると思いますが、SOV型の日本語は、文を最後まで聞かないと理解できない、だからこそ培われたコミュニケーションスタイルだと思っています。みなさんの周りの日本人も、最後まできちんと話を聞く人が多いように感じませんか。
日本語の語順の柔軟性
日本語の語順はとても柔軟である、ということも大きな特徴です。まず初級レベルで勉強するのが、「副詞」を置く位置について。下の3つの中で、副詞「よく」を置く位置が正しいのはどれでしょうか。
(1)よく 私は テニスを します。
(2)私は よく テニスを します。
(3)私は テニスを よく します。
答えは全部正解!副詞は自由度が高く、目的語の前でも後ろでも、もっと言えば主語の前に置いても問題ありません。
ですが、これらの3つの文では「主語(S)→目的語(O)→動詞(V)」の形は保たれています。ただ、実際の日本語では、「S→O→V」のルールですら、崩れるケースもあるんです。まずは簡単な例を見てみましょう。
(1) 先生は 彼を ほめた。
(S) (O) (V)
The teacher praised him.
(2) 彼を 先生は ほめた。
(O) (S) (V)
(1)と(2)は、主語(S)と目的語(O)の語順が違いますが、意味は全く同じです。ご覧の通り、順番は違っても「を」や「は」といった助詞のおかげで、正しく文の意味が理解できるんです。
では、今度はもっと極端な例を見てみましょう。
(1) 私の彼氏は、昨日私が買ったケーキを
(S) (O)
全部 食べちゃったんだ。
(V)
My boyfriend ate all of the cake I bought yesterday.
(2)全部 食べちゃったんだ、私の彼氏は!
(V) (S)
昨日私が買ったケーキを!!
(O)
こちらも(1)と(2)で、意味は同じです。でも(2)では、なんと「V→S→O」の順番になっています。話す人の気持ちが強く反映されて「食べちゃったんだ!」という動詞が最初に来ています。このように話し言葉では、SOVの語順が大きく崩れることもあります。アニメやドラマで聞く日本語の語順が、教科書で勉強した順番とはなんだか違う、というのはそのせい。日本語って、すごく語順に柔軟性がある言語なんです。
TCJでもっと日本語を学ぼう
みなさんの母語と語順が違ったり、日本語の語順がすごく自由なせいで、日本語でのコミュニケーションに難しさを感じている人もいるかもしれません。ですが、助詞の使い方をきちんとマスターして、適切に練習すれば、想像する以上に日本語は気軽に話せる言語かもしれません。ぜひTCJの先生と一緒に、楽しく効率的に日本語を上達させましょう!!
参考文献
Matthew S. Dryer. 2013. Order of Subject, Object and Verb.In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.)WALS Online (v2020.4) [Data set]. Zenodo.