日本の若者が使う「やばい」ってどんな意味?

日本語学習者なら一度は聞いたことがあるだろう「やばい」という言葉。若者はどんな意味で使っているのか、解説します。

 

今の若者はどうやって使う?

私はTCJでプライベートレッスンを担当しているほか、都立高校で外国ルーツの高校生に日本語を教えています。外国人の高校生だけでなく、日本人の高校生とも接する機会があるので、若者言葉を頻繁に耳にします。実際に彼らが話していたリアルな会話を紹介します。

 

【場面1】昼休み、女子高校生がスマホを見ながら話しています。

Aさん:「このダンスやばくない?むずっ」
Bさん:「うわっ。やばっ。こっちの動画もやばいよ?みてみて」
Aさん:「やばやば。これはプロっしょ。あ!チャイムなった」
Bさん:「やばい!遅れる〜」

 

【場面2】下校中、男子高校生が返却されたテストについて話しています。

Cくん:「数学のテスト、やばかった。まじオワタ」
Dくん:「また赤点かよ。このままじゃやばいっしょ。勉強しろよ」
Cくん:「てか、天気やばくね?」
Dくん:「やべー。傘持ってきてねー」

 

会話の中の「やばくない」「やばっ」「やべー」…
これらはすべて「やばい」という言葉です。多様な意味を持つ便利な言葉ですが、「やばい」だけで会話が成り立ってしまう…。なんだか感覚だけで会話をしているような…。この状況こそが「やばい!!」と感じるのは私だけでしょうか。老婆心ながら「日本の若者の語彙力は大丈夫だろうか。彼らが社会人になった時、しっかりと他者とコミュニケーションが取れるのだろうか」と心配してしまいます。語彙力が増えると、表現力や理解力、読解力の幅が広がるのに…。
日本語学習者にとって、これらの「やばい」の意味を推測するのは至難の業。本当の意味は彼らに聞かないとわからないところですが、彼らの表情やイントネーション、文脈から読み取って、意訳してみたいと思います。

 

【場面1】

Aさん:「見てみて。このダンス動画、最高だよ!Bさんもそう思わない?
難しいダンスだね。踊れるのすごいなー」
Bさん:「本当だ!最高!こっちのダンス動画もとてもかっこいいよ。見て見て」
Aさん:「すごいすごい!こんなキレキレのダンスが踊れるなんて、
これはプロのダンサーだよ。あ!チャイムがなったよ。教室に行こう!」
Bさん:「もう休み時間終わり?授業に遅れるかも。遅れたら最悪!」

 

【場面2】

Cくん:「数学のテスト、点数が最悪だった。俺の人生、終わった」
Dくん:「また赤点かよ。このまま赤点ばかりだと進級があぶないよ。勉強しろよ」
Cくん:「テストの話はもういいよ。そんなことより、天気が悪くなってきた。雨が降りそうだと思わない?」
Dくん:「最悪だ。傘を持ってこなかった」

 

こんな感じでしょうか。あくまで推測です。

 

実際、どんな感情で「やばい」を使うのか私のまわりの【若者】に聞いたところ、以下の言葉が出てきました。(小学3年生〜高校3年生 男女30人に調査)

多岐にわたり実に多くの言葉が「やばい」に置き換えられていることがわかります。さらに、意外だったのは「驚いた時に使う」という声が多々あったこと。たしかに、彼らは感嘆符【!】を「やばっ」「やべー」と言っている時があります。

 

「やばい」の言葉の由来

「やばい」の【やば】という言葉は江戸時代には既にあり、当時はあぶないこと、都合が悪いことという意味で使われていたそうです。
メモ:1802年に出版された「十返舎一九」の代表作『東海道中膝栗毛』という滑稽本の中に、「おどれら、やばなことはたらきくさるな(=おまえら、あぶないことするな)」という記述があることから、江戸時代には既にあった言葉だと推測されています。

「やば」が形容詞化して【やばい】になったのには諸説あります。明治時代、てきや・盗人が官憲(警察関係の役人)のことを「やば」と呼んでいて、官憲に厳しく追求された際に「やばい(=あぶない、都合が悪い)」と言っていた説や、矢場(やば)という射的場で悪事が行われていてそこから生まれた説など。戦後も引き続き、犯罪者や非行少年の間など、主に裏社会で隠語として広まったと言われています。「警察に捕まりそうでやばい(=危険だ)」「不結果を招きそうでやばい(=まずい、不都合だ)」など。平成に入ってから、一般人や若者の間で「やばい(=かっこわるい)」という否定的な意味から流行し、徐々に「あの俳優やばいね(=かっこいいね、演技がうまいね)」「あのドラマやばいね(=おもしろい)」など、プラスの評価を含めた肯定的な意味の「やばい」が生まれたとされています。

 

若者以外も「やばい」を使っていい?

私個人の話をすると、もう若者ではないので「やばい」という言葉は多用しないように、年相応の言葉遣いを心がけていますが、感情が高ぶった時につい口から出てしまいます。私のまわりの30代・40代の友人も使っています。50代・60代は人によるでしょうか。子どもがいる人、子どもと接する機会がある人は使っている印象です。ご年配の方が使っているのは聞いたことがありません。最近はYouTubeの影響もあるのか、園児まで「ヒカキンやばい」と言っていてビックリしました。※ヒカキン(HIKAKIN)は日本の男性YouTuberです。

 

「やばい」を使ってはいけない相手・場面は?

使う場面は言うまでもなく、親しい人との間のみ、カジュアルな場面に限ります。アルバイト、面接、ビジネスの場、自分より年上の人と話す時、自分より社会的地位が高い人、初対面の場、いわゆる『敬語』を使うフォーマルな場面では使ってはいけません。昔、私が働いていた職場で、新人が上司に「この案件やばいですよね!」と言ってきた時は驚きました。「やばい」を使われると、なにが具体的にやばいのかが分かりづらいですし、使った人に対して「学生気分が抜けていない」「真剣みが欠けている」「軽んじている」などの印象を否応なく抱いてしまいます。気をつけてください。その場に応じたふさわしい言葉遣い、話し方を心がけましょう。

 

TCJでもっと日本語を学ぼう

日本語を学習しているみなさん、「やばい」などの若者言葉を使ってみるも良し。新しく知ったアニメの言葉を使うのも良し。ただ、日本語は他の言語に比べて語彙が多い言語です。なんでもかんでも「やばい」で済ませず、いろいろな語彙を勉強して使いましょう。TCJのレッスンで、使える語彙を増やしましょう!

 

参考文献
神永曉(2019)『悩ましい国語辞典』角川ソフィア文庫
金田一京助(2003)『新明解 国語辞典 第五版』三省堂
米川明彦(2003)『日本俗語大辞典』東京堂出版
北原保雄(2003)『日本国語大辞典 第2版』小学館
堀尾佳似(2022)『若者言葉の研究 SNS時代の言語変化』九州大学出版会
参考URL
レファレンス協同データベース
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000329199

 

 

この記事の筆者
日本語教師
PaivaAyaka
日本語教師/Webライター/翻訳家。大学卒業後、求人広告や商品広告のコピーライターを経験。2010年からブラジルの国外就労者情報援護センター(CIATE)で、日本へ就労希望のブラジル人に日本語指導を行う。同時期にサンパウロ新聞社で翻訳記者としても働く。日本帰国後、TCJの養成講座を修了し、日本語学校で経験を積む。現在はTCJでプライベートレッスンを担当しているほか、都立高校の外国につながる生徒や技能実習生に教えている。

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