ビジネスで日本人と接する際に、知っておいてほしいマナーと心構え
先月、JICAの案件(中南米在住の日系人向け日本研修)で日本語のクラスを担当しました。その時、研修員の方から「研修先の日本企業に失礼のないように、最低限のビジネスマナーを教えてほしい。日本はマナーやルールに厳しい国だというのは知っている。日本語がうまく話せない分、せめて良い印象を与えたい」と言われました。「そんなつもりはなかったのに」と誤解を生じてほしくないので、ぜひ知っておいてくださいね。
ビジネスシーンでのNGな態度
- 腕や足を組む
- あごを突き出す
- ふんぞり返って座る
- ペン回し
- 貧乏ゆすり
- 頬杖をつく
- 視線を合わさない
- あくびをする
- あぐらをかく
- 椅子の上に足をのせる など
他にもありますが、代表的な態度や行為はこのあたりです。
日本だけでなく他の国でもNG!なものもあると思います。いくつかエピソード付きで紹介します。
「日本は濡れた髪で出社したらいけないんですか?」
濡れた髪で出社する
メキシコ、ペルー、ブラジルの研修員の方から驚きの質問をされました。彼らの国では朝にシャワーを浴びるのが一般的(夜にも浴びるんですけどね!)。出社の時、髪が濡れたままで乾ききっていなくても誰も何も言わないとのこと。もし日本で濡れた髪で出社したら、どうでしょうか。まず驚かれますよね!「雨に降られたの?」「早く乾かした方がいいよ。風邪引かないようにね」と心配されるかもしれません。そもそも濡れた髪で出社するという発想がない!文化の違い、本当におもしろいです。
腕を組む
威圧的、横柄、生意気、偉そうに見られてしまいます。アメリカでは敵対、警戒、拒絶を表すためNGだと聞いたことがあります。それが、なんと、OKの国もあるんです。日本語教師の先輩から聞いた話によると、アフリカのコンゴ民主共和国では、腕組みは「相手に敬意を表す」良い行為とのこと。先輩がコンゴのクラスを担当した時、学習者がみんな腕を組んで話を聞いていたからカチンときて注意したそうです。学習者は教師に敬意を示していただけ。知らなければお互い誤解したままになってしまう、「そんなつもりはなかったのに」の良い事例ですよね。コンゴの方には気をつけていただくと共に、コンゴでの腕組みの意味を日本人にぜひ教えていただきたいものです。それこそが国際交流・相互理解ですよね。
足を組む
足が長~い長~い外国人のみなさまにはご不便をおかけしますが、腕を組むのと同様、足を組む行為も威圧的、横柄、生意気、偉そうに見られてしまうのでご注意ください。日本企業で長年勤務されていたオーストラリア
人の学習者さん曰く、「海外でも、ただ組むだけ(片膝の上に膝をクロスする)なら大丈夫だけど、片膝の上に足首を置いて大きくふんぞり返って組むのはNG」とのこと。近年、日本人も外国人の足組みは許容しつつあると個人的には思うのですが、いかがでしょうか。
貧乏ゆすりをする
オーストラリア人の学習者さんから「たしかに過度な貧乏ゆすりは、日本ではあまり良い印象ではないかもしれないが、最近はADHDの人も増えてきているから、頭ごなしに否定はできない。私の友人は治療薬を飲んでいるくらいだから、私は貧乏ゆすりは受け入れられるよ。問題ない」という話も聞きました。私もこの意見は一理あるなと思いました。
ペンいろいろ
ペンを回したり、ペンをいじったり、ペン先を出すために過剰にカチカチ音を立てたり…、これらの行為は集中していないのでは?人の話を聞いていないのでは?と不信感を与えかねません。洋画を見ていると、アメリカ人がペンを口にくわえたり、挟んだり、たまーーにそんなシーンを見かけるのですがあれもダメです(笑)
外国人から見た日本人のNGマナー
逆に、外国人から「日本人に多い」と指摘された態度や行為が、
・視線を合わせない、ぼそぼそ話す→失礼。アイコンタクトが会話の基本!
・目をキョロキョロ、上の方を見ている。→嘘をついているか、自信がないように見える。
・過度な相槌。→こびている、へつらっているように見える。不信感を抱く。
耳が痛いです。これらも日本社会ではNGだと、常識ある社会人であればわかるはずなのですが…。日本はマナーやルールが厳しい国だといっても、全員が全員完璧ではないので、もしこのような人に遭遇したら「噂通り!」と理解していただければ幸いです。
次は、学習者から聞いたビジネス習慣・ビジネス文化の違いや心構えを紹介します。
「信頼関係を重んじる日本人!」
アメリカと日本の2ヵ国でビジネスを行っている学習者さんから聞いた印象深かった話です。「日本人は信頼関係を築くことを重要視していて、契約は信頼関係ができてから。アメリカはスピード重視。契約がまず先でそれから関係を築いていく」という話。ケースバイケースですが、確かにそうかもしれません。さらに、「信頼関係を築いた後はとてもスムーズ。ビジネスにトラブルはつきものだから、強い信頼があれば問題が発生しても共に乗り越えられるし、信頼は揺るがない。信頼関係が弱いと関係は壊れやすいし、ビジネス自体も脆くなる。信頼関係が基盤にある日本のスタイルが好きです!」とも言っていました(その方はフランスや中国、コロンビアなど他の国でもビジネス経験があるんですが、そんな方が嬉しいことに日本推しです!)。
アメリカでは契約が基盤。信頼関係を構築する前に結ばれる契約なので、契約内容は複雑できっちりかっちり。その後、相手との関係が悪くなっても、契約が強いから仕事は続けていくとのことで、アメリカ人のハートの強さを感じずにはいられません。もちろん、日本でも「仕事は仕事だから」と割り切って、プロジェクト遂行のために仕事は続けていきますが、アメリカ人ほどスマートにこなせていないかもしれません。
この話を聞いて、私はなんだか腑に落ちたんです。日本語には敬語があり、敬語も丁寧度でレベルがあり、似たような語彙がたくさんあり、丁寧・普通・カジュアルな場面と使い分けがあり、もちろんビジネスマナーがあり…これらはすべて信頼関係を築くためだったんだなと。日本人と信頼関係を築くために、上記に挙げたようなマナーを徹底して、複雑な敬語を使いこなして、相手によって語彙を使い分けて、日々がんばっている外国人の方に改めて敬意を表したいです。
「雑談は天気の話だけ!?」
英語圏の学習者から他に指摘されたのが、「日本人は雑談や世間話、アイスブレイクが少ない」ということ。日本人は対面でもメールでも「天気の話から」、もしくは「天気の話のみ」。アメリカでは家族や最近のニュースの話をしたり、男性同士はスポーツの話をしたり、ビジネスの進捗のこと、もっと幅広くいろいろなトピックの話をするそうです。天気の話はひとつの選択肢として、たとえば台風接近やハリケーン直撃など、異例の時にするそうです。
雑談や世間話が好きな日本人ももちろんいますが、ビジネスの場だと、雑談したいけど時間がなかったり、会議の終わりの時間が決まっているからアイスブレイクの時間をカットしたり。もしくは、「さぼっていると思われたくないから」と周りの目を気にしたり…。外国人のみなさんにとって、日本人と雑談する時「あれ?これだけ?」と物足りなさを感じるかもしれません。「また天気の話?」と思うこともあるかもしれません。「もっと話したかったのに」と寂しさを感じても、ご愛敬ということでお許しください、なんて。
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<参考文献>
ジェトロ(日本貿易振興会)(2003)『駐在員発4 海外のビジネスマナー』JETRO
山下直久(2023)『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』KADOKAWA
山田千穂子(2017)『まんがで身につく仕事のマナー』あさ出版