日本語の動詞について知ろう!
日本語学習の要となる動詞。そのグループ分けや複雑な活用のルール、時制の考え方、アスペクトといった重要概念をわかりやすく解説します。動詞の仕組みを深く理解し、より自然で正確な日本語表現を身につけましょう。
日本語の動詞
日本語の文法において、動詞は文の骨格を決定する最も重要な要素です。英語などのSVO型言語とは異なり、日本語はSOV(主語-目的語-動詞)の語順をとるため、動詞は文の最後に位置します。つまり、文の結論(肯定か否定か、過去か現在かなど)は、最後の動詞を聞くまでわからないという特徴があります。この章では、日本語の動詞の基本的な分類について解説します。
動詞の三つのグループ
日本語教育の現場では、学習者が効率的に活用を覚えられるよう、動詞を三つのグループに分類して教えるのが一般的です。これは、辞書形(基本形)の語尾の音韻的な特徴に基づいています。
第1グループ(五段動詞)
辞書形の語尾が「う段」で終わる動詞です。「書く」「飲む」「遊ぶ」などが該当します。このグループの最大の特徴は、活用する際に語尾の音が五十音図の「あ・い・う・え・お」の五つの段すべてに変化することです。例えば、「書く」は「書かない(あ)」「書きます(い)」「書く(う)」「書ける(え)」「書こう(お)」のように変化します。
第2グループ(一段動詞)
辞書形の語尾が必ず「る」で終わり、かつその直前の音が「い段」または「え段」である動詞です。「見る」「食べる」などがこれにあたります。活用しても語幹は変化せず、単に語尾の「る」を取って付け替えるだけという、非常にシンプルな規則性を持ちます。ただし、「帰る」や「切る」のように、見た目は第2グループのようでも、実際は第1グループとして活用する例外(例外動詞)が存在するため注意が必要です。
第3グループ(不規則動詞)
「する」と「来る」の2語のみです。特に「する」は、「勉強する」「留学する」のように名詞と結びついて無数の動作を表すことができるため、非常に使用頻度の高い動詞といえます。
自動詞と他動詞
日本語学習者が中級以降で直面する大きな壁の一つに、自動詞と他動詞の使い分けがあります。英語では “open” のように一つの単語で自他を兼ねる場合が多いですが、日本語では明確に形態が異なります。
自動詞
主語の動きや状態の変化に焦点を当てます。助詞は主に「が」をとります。
(例)ドアが開く。(自然な現象や状態)
他動詞
主語(動作主)が対象に対して行う行為に焦点を当てます。助詞は主に「を」をとります。
(例)私がドアを開ける。(意志的な行為)
動詞の語形変化について(ます形、辞書形、て形、た形など)
日本語の動詞は、語尾が変化することによって、丁寧さ、否定、過去、接続など様々な機能を果たします。ここでは主要な四つのフォーム(形)について詳述します。
ます形(丁寧形)
初級学習者が最初に学ぶのが、このます形です。「~ます」をつけることで、聞き手に対する丁寧な態度を表します。コミュニケーションにおいて、相手との距離感を適切に保つために不可欠な形式です。
第1グループ
「う段」を「い段」に変えて「ます」をつけます。(例:行く→ 行きます)
第2グループ
「る」を取って「ます」をつけます。(例:食べる→ 食べます)
辞書形(基本形)
辞書に載っている形であり、友人や家族など親しい間柄での会話や論文などの書き言葉で使われます。また、「~ことができる(可能)」「~つもりだ(意志)」などの文法構造を作る際の接続形としても重要です。
て形(接続形)
て形は、日本語の活用の中で最も応用範囲が広い重要な形です。「~てください(依頼)」「~ている(進行、状態)」「~て、~(文の接続)」など、日常会話の多岐にわたる場面で使用されます。
特に第1グループの動詞では、発音しやすくするために音が変化する「音便」という現象が起こります。
促音便
「う・つ・る」で終わる動詞 → 「って」
(例:買う→買って、待つ→待って)
撥音便
「ぬ・ぶ・む」で終わる動詞 → 「んで」
(例:死ぬ→死んで、読む→読んで)
イ音便
「く・ぐ」で終わる動詞 → 「いて・いで」
(例:書く→書いて、泳ぐ→泳いで)
この音便変化の習得は、多くの学習者にとって最初の難関となりますが、リズムや歌を用いて覚える学習法が効果的です。
た形(過去形)
た形は過去や完了を表しますが、その作り方はて形と完全に同じです。「て」を「た」に、「で」を「だ」に置き換えるだけで作ることができます。
(例)飲んで(て形)→ 飲んだ(た形)
動詞が持つ時制について(現在、過去、未来)
日本語の時制(テンス)は、英語などとは異なる独自の構造を持っています。特に「未来形」という独立した動詞活用が存在しない点は、外国人学習者にとって興味深い特徴の一つです。
非過去と過去の二項対立
日本語の時制は、大きく「過去(~た)」と「非過去(辞書形・ます形)」の二つに分けられます。非過去は、文脈や時間詞によって、「現在の習慣」または「未来の動作」のいずれかを表します。
・ 現在の習慣:私は毎日コーヒーを飲む。
・ 未来の動作:私は明日コーヒーを飲む。
このように、日本語では「明日」「来年」などの言葉が未来を示す役割を果たし、動詞自体は形を変えません。これは、文脈を共有していれば少ない語数で情報を伝達できる日本語の効率性を示しています。
未来を表す表現:意志と予定
未来形がない代わりに、日本語には「未来に対する話し手の捉え方」を表す表現が豊富にあります。特に「~つもり」と「~予定」の使い分けは重要です。
~つもりです(意志、意図)
話し手の意志や意図を表します。まだ確定していない個人的な計画などに使われます。
(例)来年、日本へ行くつもりです。(自分の意志)
~予定です(スケジュール、計画)
客観的に決まっているスケジュールや計画を表します。仕事や公式の行事など、変更の可能性が低い場合に使われます。
(例)会議は3時に終わる予定です。(決定事項)
これらの表現を適切に使い分けることで、単なる事実の伝達だけでなく、話し手の心理的な態度まで表現することが可能になります。
アスペクトについて(完了、進行など)
アスペクト(相)とは、動作が時間の流れの中でどのような局面(開始、途中、終了、結果の残存など)にあるかを表す文法概念です。日本語では主に「~ている」の形で表されますが、その意味は動詞の性質によって大きく異なります。
動作の進行と結果の状態
言語学者の金田一春彦は、日本語の動詞をその意味的性質によって分類しました。これに基づくと、「~ている」は以下の二つの異なる意味を持ちます。
継続動詞(動きが継続するもの)
「食べる」「走る」「読む」などの動詞につくと、動作が進行中であることを表します。
(例)今、ご飯を食べている。
瞬間動詞(動きが一瞬で終わるもの)
「死ぬ」「結婚する」「電気がつく」などの動詞につくと、動作が完了し、その結果の状態が続いていることを表します。
(例)電気がついている。( つく動作は終了し、オンの状態が続いている)
外国人学習者がよく間違える「私は田中さんを知ります(×)」という表現も、この理論で説明できます。「知る」は瞬間的に知識を得る変化を表すため、知っている状態を表すには「知っている(〇)」と言わなければなりません。
完了と残念な気持ち
「~てしまう」という形式は、単なる動作の完了だけでなく、話し手の後悔や残念な気持ちを表すユニークなアスペクト表現です。
・ 完了:宿題をやってしまった。(全部終わらせた)
・ 後悔:ケーキを食べてしまった。(食べてはいけないのに食べてしまい残念だ)
このように、日本語のアスペクトは事実の描写にとどまらず、話し手の感情や事態への評価を含意する豊かな表現力を備えています。
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文献紹介
森田良行(1995)『日本語の視点:ことばを創る日本人の発想』創拓社出版
庵功雄ほか(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク
金田一春彦(1950)「国語動詞の一分類」『言語研究』15号