”I”は「わたし」…だけ?日本語の一人称を知ろう!
I は わたしだけ?
「I like you」「我喜欢你。」
これは、英語や中国語で「わたし は あなたが好きです」という時のフレーズです。
けれど、これを日本語に翻訳すると、「わたしはあなたが好きです。」「僕(boku)はあなたが好きです。」「俺(ore)は君が好きです。」「うちはあなたが好きです」のように「I」や「我」をいろいろな言い方にできます。
この「I」や「我」のことを「一人称(いちにんしょう)」と言います。
一人称とは話し手や書き手のことを言います。
日本語の一人称には「わたし」の他に、いろいろな言い方があります。
よく使われる一人称
まず、日本語でよく使われる一人称を紹介しましょう。
私( わたし watashi )
私(わたし)は一番よく使われています。性別や立場に関係がなく、だれでもいつでもどこでも使うことができます。
私( わたくし watakushi )
私(わたくし)はわたしよりも丁寧な言い方です。フォーマルな印象があります。面接や会議、式典で話す時や目上の人と話す時に使います。性別や立場に関係がなく、だれでも使います。
僕( ぼく boku )
僕(ぼく)は男性がよく使う言い方です。子どもの頃に使うことが多い言い方ですが、大人になっても使い続ける人もいます。男性が自分と親しい友人や家族に対して使ったり、自分よりも若い人と話す時に使います。優しい印象になります。
俺( おれ ore )
俺(おれ)は男性がよく使う言葉です。男性が親しい人と話すとき、目下の人に対して使うことが多いです。少し強く、乱暴なイメージがあるので、フォーマルな場面ではあまり使われません。
「僕」(ぼく)も「俺」(おれ)も男性が自分のことを言うときの言い方ですが、そのイメージは随分違います。
映画のタイトルを見ると、恋愛映画や子どもが主役の映画には「僕が愛した全ての君へ」「僕は君に恋をする」「僕のヒーローアカデミア」のように、「僕」が使われることが多いようです。また、アクション映画やスクール映画のように強さやかっこよさを描いた映画には「今日から俺は」「俺たちに明日はない」「止められるか俺たちを」のように俺をタイトルに使っているものがあります。
どうしていろいろな一人称があるのですか
学習者の方からは「どうして わたしにはいろいろな言い方があるのですか」という質問がきます。逆に「日本語のわたしにはいろいろな言い方があっておもしろい」という言う人もいます。
日本語では性別、場面、話す相手によって「わたし」の言い方を変えていることが多いです。
女性は主に「私(わたし)」「私(わたくし)」を使いますが、男性はその以外に「俺(おれ)」「僕(ぼく)」なども使います。
一人の人がTPOに合わせて「わたし」「僕」(ぼく)「俺」(おれ)を使い分けていることも多いです。会社では「わたし」、仕事で取引先の人と話す時には「わたくし」、親しい友人と会って話す時、家族と話すときは「俺(おれ)」や「僕(ぼく)」を自然に使い分けている人が多いのです。
学習者の話し方を聞くと、授業中は「僕(ぼく)」や「私(わたし)」を使っているけれど休み時間になると「俺(おれ)」に変える人もいるようです。
逆に、毎回自分の呼び方を変えるのは大変だから一番無難な「私(わたし)」しか使わないという学習者もいます。
最近は少なくなりましたが、数年前までアニメや漫画の影響でしょうか、自己紹介で初めて会う人に対して「俺(おれ)は・・・です。」と言う人が多い時期がありました。聞いている方は「初めて会ったのに俺(おれ)?」とびっくりしました。
また、日本の学校に通っている女子の学習者が「学校で友だちがみんな使っているから」という理由で「僕(ぼく)」や「俺(おれ)」を使っているのを聞いたこともあります。
「わたし」をどのように言うかによってその人に対する印象が変わることがあります。初めて会った人やあまり親しくない人に対して、また、フォーマルな場所では「わたし」を使うのがおすすめです。
いろいろな「わたし」
日本語には他にもいろいろな「わたし」の言い方があります。アニメや映画でよく使われている「わたし」の言い方を少し紹介しましょう。
うち(Uchi)
*うち、今日は早く帰る。
わたしは今日早く帰る。
主に少女(小学生・中学生)が親しい人と話す時に使います。また関西から西では大人の女性が使っている地方もあります。
あたし・あたい(Atashi/Atai)
*友だちが向こうであたしを呼んでいる。
友だちが向こうでわたしのことを呼んでいる。
「わたし」の「わ」が「あ」になった言い方です。「わたし」よりもカジュアルです。今は女性で使う人が多いです。
わし(washi)わい(wa)
*わしは今年89歳になったんじゃ。
わたしはことし89歳になった。
主に年齢が高い男性が使います。親しい人と話すときや家族と話す時に使っています。少し古い言い方です。
おら(Ora)
*おらに元気を分けてくれ。(「ドラゴンボール」より)
俺(おれ)と同じ使い方をします。アニメ「ドラゴンボール」の悟空(ごくう)や「クレヨンしんちゃん」の新之助(しんのすけ)が使っているので、有名になった使い方です。でも実際に使っている人はあまりいません。
拙者( せっしゃ sesha )/某(それがし soregashi)
*拙者は常に本気でござるよ。
わたしはいつも本気です。
拙者(せっしゃ)、某(それがし)は侍(さむらい)言葉です。時代劇(じだいげき)や古い時代のアニメで使われています。「るろうに剣心(けんしん)」「ルパン三世(さんせい)」などの映画で聞いたことがある人も多いかもしれません。
日本語独特の「わたし」の言い方
日本語で「わたし」というときに、独特な言い方をすることがあります。2つ紹介しましょう。
自分の名前を呼ぶ
*このケーキ「ゆみ」が作ったんだよ。
「ゆみ」は自分の名前です。「わたし」の代わりに自分の名前を呼ぶことがあります。特に女性が使っています。家族や親しい友だちとの間で使うことがあります。
パパ、ママ、おとうさん、おかあさん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、じいちゃん、ばあちゃん、じいじ、ばあば、おじさん、おばさん
*明日はパパといっしょに遊びに行こうね。
*その宿題、お姉ちゃんが教えてあげるよ。
家族の呼び方を「わたし」の代わりに使うことがあります。特に家族や家族に近い人に対して使います。
Iはわたし。Weは?
Iは「「わたし」だけれど、Weは日本語で何というのか。この質問もよくあります。
Weは「私たち(わたしたち watashitachi)」「私ら(watashi la)と言います。
わたし + たち/らをつけることで、weになります。「わたしたち」のほうがフォーマル、「わたしら」のほうがカジュアルなイメージです。
「私ども(わたくしども watakushidomo)」は私たちよりももっとフォーマルな印象で、ビジネスなどで使われます。
TCJでもっと日本語を学ぼう
一人称の話、いかがでしたか。「ややこしすぎて頭が痛い」と思った人もいるかもしれませんね。心配しないでください。「わたし」の言い方は本当にたくさんあるのですが、普通の会話で使うときは最初に紹介した4つを覚えていれば大丈夫(だいじょうぶ)です。けれど、日本のドラマやニュース、映画などを見て「わたし」の言い方に興味を持った人もいると思います。ぜひTCJの講師に聞いてみてください。クラスでいろいろな「わたし」の話ができると思います。また、日本語には話したり書いたりする時に「わたし」をあまり使わないという特徴(とくちょう)もあります。会話やメールの中でいつ「わたし」を使うのかというポイントもクラスではお伝えしますので、自然な日本語が使えるようになります。ぜひ、一緒に日本語を学びましょう。お待ちしています。