先生、「チャラ男」ってなんですか? ~様々なオノマトペを使い分ける日本人~
犬がワンワン、雨がシトシトなど日本語はオノマトペが非常に発達した言語です。人々は、そのオノマトペに名詞や動詞をくっつけてさらに表現力豊かな言葉を生み出しています。
今回はそんなおもしろい言葉を紹介しましょう。
若い女性同士の会話
エリ「ねえねえ、ユキ。正夫君って知ってる?」
ユキ「ああ、あのチャラ男(ちゃらお)ね」
エリ「そうそう、あの男!彼がまた私に声をかけてきたの!!」
若い人がよく使う言葉のようで、「チャラ男」とはチャラチャラした男という意味です。
「チャラチャラ」は、誠実でない、軽薄そうな感じを表現したもので、「チャラい」と「い」をつけた形容詞もあります。その「チャラ」に、日本人の男の名前に多い「春夫」とか「秋男」などの「お」をつけたニックネーム(あだ名)が「チャラ男」で、女性サイドの軽蔑や不快感がよく表れた、おもしろい言葉だと思います。
日本語の教室で
教師:「きみたち、きのうの日曜日、何したの?」
日本語学習者:「私はきのう、銀座をゴロゴロしてきました」
教師:「ゴロゴロ?? 銀座を歩いたなら、ブラブラでしょ!」
ブラブラは、特に目的もなく気楽に散歩することで、「ブラつく」と動詞にして使うこともあります。銀座をブラつくことを短くしたのが有名な「銀ブラ」。ブラブラは、人がゆっくり歩く時、腕が前後に揺れる様子を表現したもので、「彼は手ブラで来た」といえば、「手をブラブラさせて」つまり、手に何も持たないで、あるいはお土産を持たないで来たことを意味します。
一方、ゴロゴロは人が何もしないで横になることですから、もし、東京で一番にぎやかな町をゴロゴロしたら他の人の邪魔になるでしょう。横になって寝ればゴロ寝、決まった住所・仕事をもたず、よくないことをする者をゴロつきといいます。ゴロゴロは、雷の音をさす擬音語としても使います。
オノマトペの多彩な表現力
オノマトペとは、自然の音や動物の鳴き声などを言葉にした擬音語と、事物の様子を象徴的に表した擬態語のことですが、たとえば雨の降る様子を「ポツポツ」「シトシト」「ザアザア」などと言うように、人間の感性に根ざした表現であることから、会議や研究発表など、公的で論理を優先する場ではあまり使われません。しかし、ものごとを直感的に表現できるために、若い人や仲間同士の会話などでよく使われます。
オノマトペは、それに動詞や名詞を付けたバリエーションが発達し、さらに新しい表現効果を生んでいます。もともとオノマトペが感覚や情景を表現する豊かな力を持っているため、合成された日本語もさらに具体的で、生き生きとした表現になるわけです。
オノマトペ+動詞の例
ザワザワする/ザワつく(多くの人が集まっていて騒がしく、落ち着かない)
ガタガタする/ガタつく(家具や道具などが緩んで音を立てる)
ムカムカする/ムカつく(不愉快で腹がたってくる/吐き気がする)
イライラする/イラつく(思い通りにならず、焦って感情的になる)
ギラギラする/ギラつく(太陽光線が強烈な様子から、欲望をむき出しにする)
オノマトペ+名詞の例
チョビひげ(鼻の下にわずかに生やしたひげ)
ポチャ顔(丸い、かわいい顔)
ポイ捨て(タバコなどを気軽に捨てること)
チョイ呑み(酒を少しのむこと)
コソどろ(すきをみてわずかな物を盗む泥棒)
ガリ勉(必死に勉強すること)
ドシャ降り(大粒の雨が激しく降ること)
ガブ飲み(大量に/大口で飲むこと)
このような表現は日常会話において多用され、普通の言葉で説明するよりも直感的に理解でき、イメージがつかみやすいという特徴があります。
また、最初に紹介した「チャラ男」の例などは、オノマトペと他の言葉を組み合わせて微妙なニュアンスを出していて、若い女性の、ある種の軽蔑感がよく表現されている例といえるでしょう。
このような合成語は多彩かつユニークで、中にはほとんどスラングに近いものもあって、特定のグループやコミュニティで使われ始めて次第に拡散したり、逆に時代とともに廃れていくものもあります。以下、こうした多彩でユニークな表現をみてみましょう。
近所のおばさんと老人の会話
近所の主婦:「山田さん、お元気ですか?」
山田老人:「ええ、なんとか。でもこの年で毎日病院通いはつらいですねえ」
近所の主婦:「そうですか……。大変ですね」
山田老人:「やはりピンピン・コロリが一番ですよ」
後期高齢者といわれるような年になると、体のあちこちに不具合が生じ、病院通いをする毎日で、周りに迷惑をかけながらただ生きているだけ、ということになりかねません。短くても元気溌剌と生きて、そのままコロリとあの世に行きたいという、現代の老人の死にざまの理想がピンピン・コロリなのですが、これは超高齢化社会に入って、老人サイドからの自虐のニュアンスも感じられる言葉です。
「ピン札」がしわのない新札、「ピンと背筋を伸ばす」が、まっすぐに伸ばすことを意味するように、「ピンピン」は元気溌剌の状態、「コロリ」は「ゴロリ」よりも軽い感じで、簡単に倒れる、死ぬイメージがあるでしょう。例えば「コロナに罹ったらイチコロだ」とか「あの美人にかかったら、男どもはみなイチコロだ」などと、「一撃で、簡単に」死ぬ、負けるということを表現するのに、日本人はなんと見事にオノマトペを使いこなしていることでしょう。
リビングでテレビを見る夫婦の会話
妻:「ねえ、あの歌手、ほんとに歌っているのかしら……」
夫:「あれは口パクだろう」
妻:「え、なんで分かるの?」
夫:「だって声と口が合ってないもん」
口パクとは、演奏会などで歌手が実際には声を出さずに、あらかじめ録音しておいた歌に合わせて口だけ動かして、歌っているように見せかけることです。声を出さないで口だけ動かすのを口パク。金魚などが水槽の中で口を大きく開けたり閉じたりする状態をパクパクと表現するところからきた言葉です。
同様にパンなどを大口をあけて食べるのもパクパク、大口で盛んに食べるのはパクつく、一口ではパクリ、地震などで地面に大きな割れ目ができたりするとパックリと口が開いている、と表現します。
「パク」という音に、大きな口でものを食べる感じがあることから、盗作、つまり人が創作したものを盗む行為を「パクる」と言い、名詞はパクリとなります。
豊かな造語力と多彩な表現
オノマトペは公式の場では使いにくいかわりに、日常の生活の中では、自分の感覚にシックリ来る、ピッタリ合う、ためによく使われます。その最たるものはチャリンコでしょう。これは一般に自転車のベル(今は法律で鳴らしてはいけないそうですが)を鳴らすと、チャリン、チャリンと音がするところから来ていると言われます。「-コ」は、パチンと弾くからパチンコ、ブランブランしているからブランコというように、親しみを感じるものに付けた接尾語です。漢字の硬い言葉、自転車よりも、チャリンコのほうが生活感覚に合った、親しみやすい名前といえるでしょう。
今ではチャリンコがさらに短縮されて「今日はチャリで来たよ」などと言います。若い人たちの造語力はさすがで、原動機付きの自転車は原チャリ、後ろに子どもを乗せる座席がついた婦人用自転車はママチャリ。チャリ通(チャリンコ通勤/通学)、激チャリ(激しく自転車をこぐ)などという言葉も若い人の間では使われていて、チャリチャリという名前のシェアサイクルのサービスもあるそうです。
オノマトペの多様なバリエーションを使って、日本人が豊かな会話を楽しんでいることがお分かりになると思います。
最後に、最近の世相を象徴するようなオノマトペを紹介しておきます。
ガチャガチャは、硬いものがいくつか触れあってでる、うるさい感じを表現した擬声語で、たとえば食器を洗う音とか、壊れたガラス瓶が袋の中でぶつかる音などを表しますが、クツワムシという虫もその音からガチャガチャと名付けられたものです。
さて、スーパーや駅などにある小型の自動販売機で、コインを入れてレバーを回すとオモチャが入ったカプセルがでてきますが、これも、その音からガチャガチャとかガチャポン(ガチャガチャと音がしてポンと出てくる)と言われます。ところがそのカプセルは機械がランダムに出す仕掛けになっていて、中に入っているオモチャは自分の意思で選択できません。そのことから「親ガチャ」という言葉が生まれました。親の経済状況や地位・職業などによって自分の人生が決められてしまうこと、自分の意思でコントロールできない要素を、なかば自虐的に、また言い訳として表現したものなのです。
この表現は若い人々に歓迎されているようで、さらに子ガチャ、身長ガチャ、顔面ガチャ、先生ガチャ、配属ガチャ、国ガチャなど、人生が自分の意思とは別のところで決まってしまう要素を付けた言葉が次々と生まれています。オノマトペはその時代を象徴しているとも言えます。
まとめ
オノマトペは、当然ながら日本語の音韻感覚にそったものであり、バリエーションも多いために、学習者にはむずかしいと思われがちですが、以下のようなことを参考にすると分かりやすいでしょう。
音の一般的な印象からいうと、五十音の「あ段」の音は明るく開放的(パタパタなど)、「い段」は鋭く短く小さい感じ(キリキリなど)、「う段」は暗く閉鎖的(グルグルなど)、「え段」の音はおどけたマイナスイメージ(ヘラヘラなど)、「お段」は強く重い感じ(ドンドンなど)というようなイメージがあります。
また清音でコロコロといえば小さく軽い、濁音でゴロゴロといえば大きく重い、というような感覚がありますが、これも一般的な傾向で明確なルールがあるわけではありません。
オノマトペは、TCJでネイティブの教師について発音をよく聞き、耳でイメージをつかみながら意味を考えるのが一番の早道。実際に使われる場面の中でその感覚をつかむようにすると応用力がつきます。